と、いうのは妄想で。 触れようかどうか、左手を何度もさえに近づけたり戻したりを繰り返していた。



しかしさえの視界には、ちゃんとその動きが写っていた。



(ひ~! やめろよボケ!)



さえはバクバクしていた。



結局、正義は勇気がなくて触れることができなかった。



(俺のいくじなし!)



しかし、さえにしてみれば無事に家についたといってもいい。 



「・・・。 今日はご馳走様です。 ありがとう」



車から降りたさえは、げっそりと頬がやつれ、痩せた気がする。



「いいよ。 またな~」



さえはぺこりと浅めにお辞儀をし、さっさと家に入っていった。 こうしてさえとのデートは無事(?)に終えた。



(あ~。 楽しかったなぁ・・・。 さえ(ついに呼び捨て)、俺のことさらに惚れたか~? それにしてもキスか、せめて手くらいはつなげると思ってたけど、ま、そー簡単にはいきませんか~。 しくん・・・涙)



その日はずっと、さえと話した会話が頭の中で飛び交っていた。