それで十分だった。

祥平は、くるりと向きを変えた。

今の姿、
だれにも見られたくなかった。

ぎゅっときつく握った
こぶしが震えている。

顔を上げられない。

きつくむすんだ口元。

大またで歩いていたのが
自然と駆け足になる。

熱くなる目頭。

苦しい、 苦しい、 苦しいよ。

行き場を失った俺の心。

失恋がこんなに苦しいなんて、
知らなかった。

なにも考えたくなかった。

だれにも会いたくなかった。