「泣くなって…。

大丈夫だから」



こんな優しい言葉を掛けてくれるのは、

きっと…神崎君だけ。




しばらくして、あたしの顔を見た神崎君は、

「ひでー顔」と言って笑った。



きっと、これも、

あたしを元気付けようとして言ってくれてるんだ。



だから、あたしも…
泣いてばかりいられない。



「神崎君、

女の子に向かって、それはないんじゃない?」


両頬を膨らませながら言ったあたし。



神崎は、そんなあたしの頭に、ポンッと手を置いた。



「それでこそ…


円香じゃん」



「え…?」




今‘円香’って…。


不思議に思って、神崎君を見上げると、

初めて見せるイタズラな笑顔。




「‘お願い’

何でも聞いてくれるんでしょ?」


「あ…」


ちゃんと、聞いてくれてたんだ。



「何がいいかなって歩きながらずっと考えてたんだけど、

やっぱり自分の彼女は名前で呼びたいなって。

だから今から、円香って呼ばせて?」



それを聞いて、神崎君が喋らなかった理由がやっと分かった。



「…うん!」


そんな嬉しいお願いなら、いくらでも聞く。



あたしたちは再び、手をつないで、歩き出した――…。