まどろみの淵にて~執事ヒューマノイドの失われた記憶~



確かに、覚えがない。彼女の顔にも、この部屋にも、窓の外のふわふわとした雪にも。そして、私がいつどうやってここへ来たのかも、全く覚えがなかった。


「不安にならなくても大丈夫です。ここのスタッフはみな、あなたを知っています。覚えてらっしゃらないでしょうが、いつもあなたは皆に美味しい紅茶を入れて下さるんですよ」


まるで旧知の仲であるかの様に、彼女は微笑みながら話を続けている。言われてみれば会った事があるような気もするのだが、そのあたりの記憶が深い霧にすっぽり覆い隠されてしまっていて、判然としない。