トントントンと、台所から規則正しい音が聞こえてくる。 僕――尾上広次(25)は会社員だ。 しかも完璧に下っ端。 まあ、入社5年目だから、当たり前っちゃあ当たり前なんだよ。 そんな僕が台所に立っている。 この家に女性は一人としていない。 ただ、僕は一人暮らしって訳でもないわけだ。 台所で「彼」が好きだと言ってくれた卵焼きを作り出す。 そして「彼」を呼ぶ訳だ。