「…………ねぇ、」


後ろから、声がする。

あの愛おしい声がする。


「……ねぇ、ひとりで帰っちゃうの?」

振り返ると、彼女が寂しそうにこっちを見ている。


手には、俺の大好きなスポーツ飲料。

「なんで、…まだいんの…?」


上手く話せない。

「待ってちゃ、だめだったの?」

泣きだしそうな彼女の表情。揺れる瞳。

あまりにかわいくて、抱きしめたい衝動に駆られた。


「きっと、走って帰ってきてくれるって思ったから、飲み物欲しくなるかな、と思って、買いに行ったの……、」

と瞳を伏せる彼女を見て、抑えられなくなった。


ぎゅっ、と彼女を抱き寄せる。

「え…?ん、なに、…?」

少しだけ慌てたみたいな声。


俺は力を強めた。

「遅くなってごめん、待っててくれてありがとう。あと、飲み物もありがと。」


そう耳元で優しく囁きかける。

彼女はくすぐったそうにクスクス笑ってから

「待ってたぶん、ぎゅってして。」


と俺の耳に囁きかえした。