彼女をぎゅ、と力いっぱい抱きしめた。


「………え?ど、して、?」


「バニラの誘惑に負けたから」

彼女は少しだけ身体を離して僕を見上げる。


困ったような、戸惑った表情。

かわいい。


「君のこと、ずっと見てたんだ。毎日のように放課後練習してたの知ってて、歌、上手いんだなぁって」


「私も、貴方のこと、前から知ってたわ。放課後の練習中にいつも音楽室の前を通る人がいる、と思って」

驚いた、ばれてただなんて。


でも、なんか嬉しい。

「だから、今日も、教える相手が貴方だったら、って願ってたの。そんな偶然、無いと思ってたけど、」

俯きがちに話す歌姫は、さっきまでの女の子とは違う。

姫、というよりオヒメサマだ。


僕は彼女の顎を持ち上げ、彼女の大きな瞳を見つめた。

「まだ、君のこと、よく知らないけど、これからもっと教えてよ」






もちろん、君の特別授業で



fin