思っていたよりも真面目な指導だ。


でも、僕は指導よりも彼女が動くたびにふわ、と鼻をくすぐる甘いバニラの香りに気を取られていた。

ふわふわの髪が揺れるたびにどき。と胸が高鳴る。


「ちょっと、ちゃんと聴いてるの?」

しかめっつらで僕に近寄る歌姫。


ふわふわの髪が近づき、香りが強まる。

しかめっつらですらかわいくて仕方ない。


「ねぇ、!聞いてるの!」

なにも言わない僕に痺れをきらしたのか、彼女は声を荒げた。


「あ、うん、ごめん、聞いてる。ちょっと君のことを考えてた」

僕はなにを正直に答えているんだろう。

これじゃあただの変態みたいだ。


「私の、こと……?」

「あ、や、今のは気にしないで」

首を傾げる彼女から視線をそらす。


「いやよ、今、私のことって言ったわよね?」

ぐ、と僕の目の前まで詰め寄る歌姫。


もうだめだ。