「結菜ちゃん…」
急に名前を呼ばれて振り返る。
結構頑張って走ったつもりだったのに。
悠紀くんは私の鞄を持って困ったように笑っていた。
「鞄、忘れてたよ。結菜ちゃん足速すぎ。探し回ったよ」
彼の額にはうっすら汗が滲んでいてどれだけ走り回ったのかは容易に想像できた。
はい、て笑顔で渡されたその鞄を握りしめて私は悠紀くんに背中を向けてまた歩き出そうとした。
こんな形でお別れしてもいい、そう本気で思った。これ以上彼の口から言葉は聞きたくなかったから。
言い訳に似たその言葉を。
それなのに彼は私の手首を強くつかんだ。そのまま振り返って彼を見ると、悠紀くんはまっすぐと私の目を見つめていた。
その目には涙が浮かんでいて、なんとなくこのまま彼を一人にするわけにいかない気がした。大好きな悠紀くんだから信じたいという気持ちがあったから。
本当は聞くのがこわいくせに。

