「お前にとって桐は何だ?」

その時、確かに風は止んだ。


ギシッ…と兄の座るベッドだけが、部屋に響いた。
前のめりになった兄に身退きたい気持ちをぐっとこらえた。

兄が腕を組み変えた。
彼の落ち着かない時の癖…。


…思わず目がいってしまう。


筋肉質の焼けた腕。
肘に残る手術の跡の傷。

幼いながらに今でも焼き付いている。
痛々しいその腕を抱えて、初めて私の前で涙を流した兄。
何度も謝る兄の姿。

その原因を作った桐を救えと言う。
私は…何故…そこまで拘るのだろう。


―…憧れ。

違う―…。
この気持ちは…
そんな簡単なものじゃない。

…でも…


「…分からない。」

ただ…もう一度。
彼をマウンドに立たせたいの。

傲慢と呼ばれても良い。

あの球をもう一度……。