―"KIRI"

グローブに刻まれた文字。

歪んだ文字で縫ってある。

それはそうだろう。
不器用だった小学生の頃の兄が
縫った文字なのだから。

これでも一生懸命
何回も何回も縫い直して
綺麗に出来た方だ。

『お母さんがやるよ』
とどんなに母が手を伸ばしても
兄は断じて首を横に振った。

針が指にささって
絆創膏だらけになっても
兄は縫い続けた。

『何で?』
ってあたしが聞いたら

『秘密だよ』
それは嬉しそうに
白い歯をみせて
顔をくしゃくしゃにしたのを覚えてる―