あたしは
震える指先を強く握りしめて
橘の元へと駆け寄る。

「…馬鹿。」

小さな声で呟きながら、橘の手をハンカチで巻いた。

白と桃色のハンカチは
簡単に橘の血の色に染まっていく。

あたしは
真っ赤な手を
両手で強く握った。


…大きな手だ。

あたしにはない、大きな手。

この手なら
何でも掴めると
信じてた、君の手。


「何でこんな事するの?」

震えた声をしぼりだす。
橘を包む手が小刻みに震えだす。

橘は、視線を落としただ黙って何処かを見ていた。

…あんたの手は
こんな事する為にあるんじゃないんだよ―?


唇を噛み締めた。

それでも
堪えた気持ちは収まらず、沸々と沸き上がる。

…もう、自分じゃ制御できない―


「…橘、あんたがこんなに苦しむ事ない!」

気付いたら橘の胸ぐらを掴んでいた。

色んな感情が
あたしの身体を駆け巡って
上手く息が出来ない。

伝えたい事が
沢山あるのに―。

言葉にならない感情が
あたしの胸の中で消えていく、もどかしさ。

橘を掴む手が震える。

こんなに近いのに、橘はあたしの顔を見ようとせず、ただ地面だけを見ている。

寂しそうな瞳は
あたしを映してなどいなかった―

あたしの
言葉なんて
届かないの―?…