「…推薦を蹴るほどに?」

「…ん。」

馬鹿だね、と
先生は小さく笑った。

なんて色っぽく笑う奴。
人間じゃないみたいに、綺麗だ。

…でも
そう続けて、保健医は俺の頬に触れている指先に力を込める。

「…桐は、速くならないよ?」

硝子玉の瞳が
揺れた。

俺は目を見開く。

「…それ所か、あの頃にさえ追いつけないかもしれない。」

ロウソクの炎のように
ゆらゆら、揺れる。

「何より野球をしたがってないのだよ?」

鉄の味が広がる。
噛み締めた唇から、血が伝う。

「野球したがってない訳ないだろ…っ!」

今度はでかすぎる声で叫んでた。

強く握り締めた拳が震える。

―桐が野球をしたいと思っている。

これは俺の願いに近い。

だけど…

だけど、桐は

泣いていたんだよ。

野球を嫌いと言ったとき
泣いていたんだ。

肩を震わせ、泣いていた。

何より

投げて
捕って
走って
打って

野球の面白さを知ってしまった奴が

野球やりたくないなんて
おかしいんだよ―