―桐をマウンドに立たせたいのか?

立たせたいに決まってる。
嫌がる腕を引っ張ってでも、立たせたい。

ここがお前の居場所だ、と教えたい。

だけど…

出来ないから。
そんな資格、俺には無いから。

マウンド―

桐の球を捕る事で
俺は桐の全部を理解しているつもりだった。

自惚れだった。

桐の痛みも不安も
分かろうとしなかった。

桐の球で、ゲームを組み立て勝つ快感。
そんな貪欲な感情でいっぱいだったのかも知れない。

―ストレート

あの日
何度、放ってもストライクを取れなかった。

俺は桐の速いストレートで、早く決着を着けようと考えてしまったんだ。

自信があったんだ。

桐を失って気づいたこの気持ち。

自分がとても恥ずかしくて、逃げ出したくなった。

ストレートというサインを
後悔している訳では無いけれど、後ろめたさはあった。

だから
桐をマウンドに立たせたいのか。

…いや、違うんだ―

「…立たせたい。」

自分でも驚くほどに、弱々しい声だった。

「……何故?」

薄ら笑いをうかべた保健医が、俺に答う。

「…桐の球を、捕りたい。」

捕りたい…。

捕りたいんだ。

身体の奥まで痺れる、あのストレートをもう一度。

もう一度、捕りたい。

傲慢かもしれない。

でも―…

眼球が渇く。瞳を閉じて必死に堪えた。