「推薦来たとこ、すっげぇ魅力的でさ。甲子園にも行ってたし。朝から晩まで、野球ずくし。…正直、行くつもりだったんだ。」

あたしの瞳を
真っ直ぐに見て、懐かしむ口調で言った。

「周りもすっげぇ喜んでくれた。…偉いね、すごいね、って。…でも俺自身はちっとも喜べなかったんだ。自分の事なのに、他人の事みたいでさ。」

…変だよな、と
無理に笑いながら、あたしの頭をポンポンと叩く。

分かるよ、と
あたしは言わなかった。

ただ里央の言葉に
耳を傾けるだけしかなかった。


「…これ、預かってて。」

手渡されたのは
古いけど丁寧に手入れされたグラブ。

手縫いで名前が刻まれていた。

あたしは目を見開き
その名前を指でなぞる。

「…きり」


KIRIと書かれたグラブは
あの日
キリがマウンドに捨てた
グラブだった―