―屋上

一心に、ここに向かって走る。
迷いなんてない。

いつも
あいつは
天に一番近い場所にいるって
知ってるから―


「…橘!」

乱れた呼吸を整えて、叫んだ。

こんなに急いで走ったのは

今日は
とても
とても
泣いている気がしたから―…


「…明石?」

橘が聞こえない位の声で
あたしの名を呟く。

目を見開き、あたしと目を合わせたけれど、すぐにそらされた。


橘は、フェンスにもたれかかり、顔を青くして辛うじて立っている。

身体は雨に濡れていて
髪の毛から
雫が次々と落ちてゆき、
手は金網に打ち付けたのか
血と打撲で
ぐちゃぐちゃになっていた。


…ほら、
一人で泣いてた。


胸に込み上げてきた気持ちを
グッと堪え、

白い歯を少しだけ見せ、強がってみせた。