「…待ってっから。」

「…」

「ミット構えて、待ってっからな!」

眼球が渇き、喉に温かいものが込み上げてくる。

心が揺れる。

里央の言葉に表情に
心が音の振動のように

波になって、揺れる。


「…野球、しような。」

俺の耳元で
そう確かに呟いた。

左肩から
温もりが消える。

足音がどんどん遠ざかり
里央の気配が消えた。

一人にしてくれたのだろう。



誰もいない屋上。

そっと
左胸に触れてみる。

ドクン…ドクン
すごい速さで俺の身体に脈を打ち、血を循環させる。

止まれ…
止まれ…

自分の心臓じゃないみたいに、高鳴る胸。
腹に重い痛み。

皮膚を突き破って、心臓が出てきそうだ。

冷静になれ、と
どんなに言い聞かせても
熱から覚めない脳。

ゆっくりと深呼吸をして

荒れた呼吸を
少しずつ整えていく。


そっと
空を見上げれば

いつの間にか
曇り空で

雲の間から覗く太陽に

ただただ
でてこないでくれ、と

願った―…