バッグを持っているのも忘れた。 あたしの手から逃れたバッグは、フローリングの上にボトリと音を立てて落下した。 「またな、って言っただろ?」 唇の両端を持ち上げて、答えた彼。 呆然と立ちつくすあたしに、 「おいで」 とひどく優しい声でそう言って、腕を広げた。 言いなりになってしまったかのよう。 あたしは、コートを脱ぎもせずに、ゆっくりと彼に近付いてゆく。 あまりのスローさに、彼は腕を広げたまますくっと立ち上がって、近寄るあたしをぎゅっと抱きしめた。