――部屋に入った途端に、あたしの視界はジワリと滲んだ。 「どうして......」 そこには何もなかった。 霧崎さんの靴も。 テーブルも。 テレビも。 白いカーペットも。 小難しいタイトルの本がギッシリ詰まった、あの本棚も。 器用な寝方をしてた、あのソファも。 何もかも、すべて...。 跡形もなく、すべて...。 まるで、 これから賃貸される新しい物件みたいに。 まるで、 ここには最初から何もなかったみたいに――。