「そうなんだよね。東大の後期試験で初めて合格者が出たからって、先生たちがすごくはりきってるの」
でも先輩は、そんなことを微塵も感じさせないで話を続けていた。
顔を少ししかめたり、困ったように笑ったり。
いつも挨拶くらいしかしないから、こんなに話すのは初めてだ。
そもそも、女子とはよく話すけど、男子部員では隼人先輩と須賀先輩、あとは薄と少し話すくらい。
男が嫌いなんじゃないかと思うほど徹底して男子と一線を画しているように見えたけど、実はそんなことなかったんだと気づいた。
みんな、高橋先輩のことを遠巻きに見ているだけで、身近に感じていないから。
そう、薄の言っていた“人間扱い”をしていないから。
普通にしていれば、こんなに気さくに話してくれるのに、今まで近づこうとしていなかった。
綺麗すぎて、触れちゃいけない気がして、勝手に想像上のガラスケースの中に入れて、観賞用にしていた。
俺が、俺たちがそんな状態だから、互いに近づけなかったんだろうか。
薄が先輩に近づけるのは、先輩もただの人間だと気づいて、遠くの人じゃないんだってわかっていたから?
一世一代の告白を前に、俺はとてつもない後悔に襲われていた。



