視線を落とした俺は、高橋先輩が濡れた手を拭くその仕草を見ていた。
そして、あることに気がついた。
「あ、それ…」
思わず俺が声を出すと、先輩は俺が何を見ていたのかに気がついて、それを軽く振った。
「小野崎くんがくれたタオル、使わせてもらってるよ。あのタオルだいぶ使ってたのに、新しいものもらっちゃってごめんね」
でも、ありがとう。
高橋先輩はいつでも、こうやって素直に感謝を口にすることができるんだ。
当たり前のことだけど、それができない人だって多い。
俺だってできてるかわからない。
高橋先輩のそんなところは、まるでこれが最後になってもいいように、後悔が残らないようにしているみたいだ。
なぜかそれがとても、悲しいと思った。
俺は噛みまくりながら返事をして、今度こそ帰路に着いた。



