よかった、よかった!

望みはまだつながっている。

真冬の寒さをものともせずに、温まった心を抱えて帰ろうとしたところで、手洗い場に高橋先輩の姿があることに気がついた。


「お疲れさまです」


深呼吸をして心を落ち着かせたものの、やっぱり興奮して鼻息が荒くなってしまった。

俺の声に振り返った先輩は、お疲れさま、と百合の花みたいに微笑んだ。

この微笑みはまだ、誰にも奪われていない。


「寒いね。もう手の感覚がなくなっちゃった」


ドリンクのボトルを素手で洗っていた先輩の指先は赤くなっていて、思わず手を伸ばして温めてあげたくなった。

だけど、当然そんなことはできなくて。


「いつもありがとうございます」


なんて、ただの後輩としてお礼を言うことしかできなかった。

俺はどこまでも臆病で、意気地無しだった。