「新たに2年生、3年生になった皆さん…」


煉がマイクの前で話している間、私は煉のななめ後ろで笑顔の大和撫子を演じる。

手を振る人たちにも笑顔を向け、ただ煉が話し終えるのを待つ。


「以上で私の話を終わります」


ゆっくりと私と同じくらい笑顔を作っている煉がマイクのスイッチを切った。

この始業式が行われている大ホールから拍手が響き渡り、私たちはステージから立ち去る。


「はは、相変わらずの出来だな。安心して聴くどころか尊敬まで覚えるよ」

「お褒めに預かり光栄です。彼女がいつもサポートして下さりますのでとても助かります」

「いえ、私が会長に出来る事など些細な事でしかありませんので…」

「2人はほんと良くできた人間だよな」


学年主任からの褒め言葉を相変わらずの笑顔でかわし、私と煉は他の生徒よりも一足先にホールをあとにする。

入学式の準備が、と先生には言ってあるが本音はただのサボり。

ガチャ、と音を立てて生徒会室の扉を開ければ見慣れた赤いソファにダイブ。


「お疲れさま、会長」

「これからが本番だろ、副会長」

「そうだね。あ、コーヒー飲みたいな。煉、コーヒー」

「俺はお前の召し使いじゃねぇ」


そう言いつつ、コーヒーメーカーを動かし始める煉にはさっきまでのかしこまった雰囲気はない。

もちろん、私にも。

お嬢様言葉も張り付けた笑顔もない、これが素の私たち。