「……聞き流してくれ…」



一言呟いたまま、また黙ってあたしを見下ろす紫月さんに


…あたしは、ほんの少し笑った。



「それなら…十夜が目を覚ましたら、《ありがとう》って…言ってあげて下さい。

きっと、喜びますから…」



膝を折って座り込むと、十夜の長い睫毛に触れた。



屈託ない表情で嬉しそうに笑う十夜の笑顔が思い浮かんだ。



…それからもう一つ浮かんだ十夜のするだろう顔に笑みが深くなった。



「でも、きっと一回は殴られちゃうだろうけど。」



「……!」



十夜のことだから思いっきり拳を振るった後、『もう忘れた』って…ニヤリと得意気に笑うはず。



あたしの大好きな顔で。



生き生きとした十夜の姿を思い浮かべるだけで、心の中に明るい光が灯った。