「……姫君。」
振り返ると、ほんの少しだけ笑みを浮かべた橙伽さんがあたしに向かって一つ頷いた。
「……っ。」
…それでいいと、言ってくれているようで嬉しかった。
その後ろに、紫月さんを狙った…茶色の狼がいた。
未だ二人から拘束されていたけれど、もう暴れだすような覇気は感じられなかった。
「信じて……本当に、取り返しのつかないことになったら…どうする…?」
「………。」
彼はうつむいたまま…あたしにたった一言、小さな声で…問う。
…この人はこの人なりに、大切な者を…守りたかったんだろう。
「…考えてもいません。」
あたしはそう言って苦笑する。
茶色の狼はあたしに向かって顔をあげた。
その瞳を見つめると怯えたように薄茶の瞳が揺れた。


