「それより、いい加減におろしてっ!」



あたしはそう言うと真神十夜の腕の中で足をばたつかせてもがく。



「暴れんなよ。別にこのままでいいのに……。

おまえ軽すぎだ。もっとちゃんと食え。」


「………。」



そう言いつつ、またあたしに睨まれて…しぶしぶながらおろしてくれた。



あたしはすぐにくるりと彼に向き直ると



「あんたは一体なんなの?どっちがホンモノなの?………狼?人間?」



矢継ぎ早に質問を始めたあたしに真神十夜は苦笑して



「落ち着けよ。………どっちもホンモノ。

俺は、言わば《人狼》だから。

まぁ人間がベースかな?」



と、にこりと笑った。



「………人狼……」



サラリと言われたそれを思わずつぶやく。



この文明社会の世の中にそんなレトロな伝説めいた存在が……?



にわかには信じられないことだけど



「まぁ…見とけ。」



「えっ!?」



言うが早いか彼はニヤリと笑い、次の瞬間には――



「………!!?」



あたしの目の前には昨日の黒い狼……!!



瞬きをする間もなく一瞬の出来事だった。



「…どうだ?」



「………!!」



そして、またあっという間に真神十夜は人の姿……



目の前で繰り広げられた《変身》に最早疑う余地もない。



「普段…は、こっちの姿なのね……?」



あたしは必死に冷静を装うと何とか言葉を絞り出した。



「…そうだな。普通に高校生だ。」



彼はそんなあたしを知ってか知らずか…いたずらっぽくそう言って笑うとブレザーの裾をピン…と引っ張って見せた。