声の主は時々光をくれたお月様でした。
 
『そこにいったら、なにがあるの?』
 
上を向いても生い茂った木々でお月様の姿は見れません。
 
『来たらわかるよ。』
 
優しい声に導かれながら、薄暗い森の中をゆっくり進みます。
 
月の光が辺りをぼんやりうつしてとても綺麗です。
こんな景色を見たのは久しぶりでした。
 
『湖までおいで。私はそこにいるよ。』
 
『あなたは、そこにいるの?』
 
生い茂った森のなかに、大きくはない湖がひっそりとありました。
 
『やっと会えたね。』
 
お月様はいいます。
 
『水面を見てごらん。』
 
上を見ると真ん丸なお月様がいます。
とても綺麗でした。
 
その子は落ちないように水面を覗き込みます。
静かにゆれる水の中には、真ん丸のお月様と……
 
『あっ。』
 
『何がうつって見える?』
 
『耳が長くて、…目が赤い。これは…僕?』
 
『そうだよ。とても綺麗な白色をしているね。』
 
白い小さな兎は確かめるように言います。
 
『僕はここに在るの?』
 
『君はそこにいるんだよ。』

 
『お月様もそこにいるんだね』
 
兎はにっこり笑いながらお月様を見ていいます。
 
『そぅさ。私もここにいる。君は存在しているんだよ。だから話し掛けたんだ。』
 
兎は嬉しくて嬉しくて飛び跳ねながらお月様に話し掛けます。
 
『僕はここにいる。お月様が教えてくれた。
 
   ありがとう。』
 
兎は飛び跳ね続けます。
お月様に少しでも近付けるように。
 
兎はそれから夜になり暗くなると、湖に行きます。
 
お月様とお話をするために。
お月様に近付けるように