happy birthday dear mikoto♪

 どうして、こうなった?

 俺は今、何をしているんだ?

 美琴は、美琴は何を望んでいるんだ?

 happy birthday ……

 どうして、祝福の歌をうたっているのに、こんなに悲しいんだ?

「……トゥ、……ユゥー……」

 美琴の顔を見つめた。

 美琴は笑っていた。

「……ありがとう。……わたしは……幸せだよ。よかった……。最後に……浩介に……逢えて」

 最後だなんて、言うなよな。

「美琴……」

 俺のほうを真っ直ぐに見据えて、美琴は両の手を俺の顔に伸ばして来た。

 そして、愛おしそうに俺の顔を撫でようとするのだが、もう力が入らないのか、うまくいかない。

 そうか、もういってしまうんだな。

 美琴は、いなくなってしまうんだな。

 だから、俺はもう一度強く美琴を抱きしめ、

 美琴の顔をもう一度、けして忘れないように、目に焼き付けるように見つめて、

 そして、

 キスをした。

 最後の瞬間まで、

 ふたり、

 いっしょに。

 美琴の唇は温かかった。

 俺は泣いていた。

 涙が止まらなかった。

 涙がふたりの唇のところまでこぼれ落ちて、しょっぱかった。

 花の匂いがする。

 血の匂いがする。

 美琴の匂いがする。

 世界はとても静かで、時はゆっくりと流れていき、

 いつの間にか美琴の唇から暖かさがなくなって、

 もう、俺の目から涙がこぼれなくなった頃には、

 抱きしめた美琴の体さえも、冷たくなっていった。




 そうして、美琴は誕生日のその日に死んでいった。

 10年前の話だった。