最近はどうにも、世知辛い世の中で、自殺する奴が増えているらしい。

 俺には、頼むから死なないでくれと言うぐらいしか出来ない。

 こう言い返されるかもしれない。

 自分の命ぐらい、好きなようにさせろって。

 だとしたら、俺も言い返そう。

 残された者は悲しいんだ……と。


      †††


 季節は移り変わる。

 俺が鼻の穴に赤いチューリップを咲かした春から、夏になり、秋を過ぎ、冬へと変わろうとしていた。

 その間、俺と岸田の間にはいろいろな事があった。

 俺が水泳大会で優勝し、岸田は市民プールで溺れた。

 俺がバンドを始めて、岸田はピアノのコンクールで優勝した。

 俺が骨折で入院して、岸田は盲腸で入院した。

 俺がバイトして買ったプレステを、岸田が次の日にはジュースをこぼしてぶっ壊した。

 俺は岸田の事を、『お前』から『美琴』と呼ぶようになった。

 岸田は俺の事を、『キミ』から『浩介』と呼ぶようになった。

 そんなある日の事だった。

 いつもと変わらないはずの1日だった。

 その日、俺は風邪を引いて休んだ美琴の家に見舞いに行ったのだった。
 
「大丈夫かよ。こないだ盲腸になったばっかだからな。今度は妊娠でもしたのかと思ったぜ」

 美琴の部屋は鉢植えやら押し花やら、とにかく花がいっぱいある。

「ただの風邪だよ~。全然たいしたことないし。って妊娠って誰の子?」

 赤面しながら美琴が答えた。

「松尾カンパニー」

 美琴は飲みかけのハーブ茶を、俺の股間に向けて吹き出した。

 ちなみに松尾カンパニーとは、うちの学校の古典教師でハメ撮りAV監督のカンパニー松尾にそっくりなのだ。

 もう直視するだけで妊娠しそうな腰つきの授業で、我が校では有名だ。

「どこに向かって吹き出してんだよ~。ズボンが濡れちまったじゃね~か。こんなんだと、おもらししたのか我慢が効かない変態さんじゃね~か」

「松尾カンパニーって……。普通、そこは『俺の子を妊娠か~』とか言うんじゃないの?」