「美琴の部屋、今も昔と同じままにしてあるんです。ご覧になりますか?」

 その中は、本当にあの日のままだった。

 一瞬、自分が高校生であるかと錯覚するぐらいに……。

 思い出に微睡[まどろ]んでいた、その時。

「南野さん……、いいですか?実はあなたに美琴からの贈り物があるんです」

 おばさんに声を掛けられた。

「贈り物?」

 なぜ、今になって?

「ええ、もしあなたが10年経っても美琴に会いに来てくれるようだったら、渡してくれって……。美琴が遺していた手紙に書いてあったんです」

「10年経っても?手紙?」

「はい。これを……受け取ってもらえますか?」

 おばさんが両手に大事そうに抱えて持っていたのは、木製のちょっと大きなオルゴール。美琴が得意だったピアノの形を模してある。

「はい。美琴からのプレゼントなら、もちろん もらっていきます」

 見た目より重量感のあるそれを受け取った俺は、ふと左手の腕時計を見る。

「もう15時か……、すいません、ちょっと寄らなきゃいけない所があるんで、今日はこの辺で失礼していいですか?」

「ええ、今日は本当にありがとうございました。天国の美琴もきっと喜んでくれると思います」

 天国の……か。

 ひとつだけ、おばさんに聞きたくても聞けなかった事があった。



『美琴は、あの日、なぜ自殺したんですか?』