架空の物語には結末がある。

 しかし、現実の物語はハッピーエンドだろうがバッドエンドだろうが、俺たちが死ぬまで続いていく。

 幸せな結末を迎えた、おとぎ話のカップルたちは、その後どうやって生きていくのだろうか?


      †††††


 それから。

 俺はどういうわけか素行不良生徒代表から、優等生代表になっていた。

 水泳部も、バンド活動もすっかりやる気を無くしていた。

 美琴を亡くした高2の12月から、高3になるまでの間の記憶は今でも思い出せない。

 あの時、俺はいったい何を考えていたのだろうか。

 高3になった俺は、ある理由で大学進学を志す事となる。

 ただ、何も考えずに受験勉強に集中していった。

 そして、俺はW大学に現役入学する事になり、そこである女と出逢う事となるのだが、それはまた別の話だ。





 あの日から、ちょうど10年経っていた。

 俺は会社を有給休暇を取って、幾多の人々が眠る明青霊園へとやって来ていた。

 ここに、美琴の墓もある。 

 美琴の誕生日でもあり、命日でもあるこの日に花束を手向けに来るのが、俺の年間恒例行事のひとつになっていた。



 名前すらわからない、大量の花束を美琴の墓前に添えようとした時だった。

「南野さん……、今年も来てくれたんですね」

「おばさん……」

 美琴の母親だった。

 既に一社会人である俺が、おばさん呼ばわりするのも失礼な話かもしれないが、他にどう呼べばいいのか見当がつかなかった。

 『岸田さん』なんて、他人行儀な呼び方をする事のほうが、俺には失礼な気がしていた。

「3年ぶりですね。すっかり立派になって。あれから仕事は順調かしら?」

「ええ、それなりにトラブルもあったりしますが、いい調子でやってますよ」

 3年ぶりに会った美琴の母親は、以前よりも老け込んだような気がした。

 俺も、他人から見ればかなり変わったのかもしれないが。