その部屋のドアを見ていたくなかった

あの部屋には近づきたくもなかった


タバコを消し

携帯、携帯、と携帯を手に取ると


リダイアルから電話をかける

すぐに「もしもし?」

と初老に近い声が逆に自分を呼び返す

この語尾の上がる感じが

道子は好きではなかった。

「もしもし、おはよう」

「あぁ、おはよう。どう?具合は」

「もう体がだるくって」

「あぁ、温かくしなさいよ?今日あれだろ、荷物?優子の。」

「えぇ…。詰めないと…。」

ここで道子はため息を吐く
「あなた、やってくれない?今家は誰もいないし、あたしあの子の部屋に入りたくないの…」

すこしかすれた声で道子が言うと

「あぁ、そうだなぁ。じゃあ後1時間くらいかかるけど行ってやるよぉ」

「ほんと?ごめんなさいね、ありがと」


これで自分は何もしなくていい。


道子は本当にあの部屋に入りたくなかった

そして体がだるいのも本当だった

だが何故だろう…

チクリチクリと罪悪感が
胸を刺す


いいのだ、小室に任せれば
私は疲れている

夜の仕事に。家事、育児

私は頑張っている


顔を洗おうと広い洗面所へ入った

キッチンと洗面所とお風呂の広さが道子はとても気に入っていた


鏡にうつった自分の顔。
華やかで美しいと言われてきた目鼻立ち

ぇっやだ、シミ?

小さなシミを見つけてしまった

歳ね……。

明日ビタミン剤をもらいに美容外科へいこう

そう心でつぶやくと


いいのよ、これで
私は被害者なんだから…

そう自分に言いきかせて
蛇口をひねった