翌日、駅で久留生海斗が到着するのを待つ。


休日にも関わらず私が着ているのはS高校のセーラー服。


しょうがない。

だって、別にデートって訳でもないし。

それに、オシャレな服なんてそもそも持ってないし、用意するお金も時間も無かったし。


まぁ、こんな格好じゃ連れてくの恥ずかしいって、久留生海斗が諦めてくれればそれこそ望む展開だし。


数分遅れて、海斗がやって来た。

こいつ、脚が長いからバイトのツナギもモデル並みに着こなすけど、私服姿もチョーカッコよく決めてて、軽くクラ〜〜ッと目眩がする。


「えっ?!セーラー服……なんだ……」

ザマ~ミロ。

がっかりしたでしょ?

久留生海斗は失望しているんだ、と思った。


「すげぇ~可愛い……」


彼の口から思わぬ言葉出て来て、こっちが動揺する。


「行こう。みんな待ってる」

「ちょっと、待って下さい!制服ですよ」

「いいよ。それで。気にしない」


久留生海斗に強引に手を引かれ、券売機で切符を買って、改札口を通過する。


お互い無言のまま電車に揺られて着いた場所は、都心に近い低層階の高級マンション。


「すごい……ですね」


私はゴクリと唾を飲み込む。

こんなすごいところに住んでいる人が久留生海斗の友達?

私なんかとは別世界の住人だ。


「お笑い芸人の○○さんも住んでるらしいよ」


そんなすっごいところに、こんな制服で来ちゃったなんて。


制服姿に気後れしていると、久留生海斗に手首を掴まれる。


「不安がらなくても大丈夫だよ。俺がいるから」


私は慌てて久留生海斗の手を払う。


「『寄るな、触るな、近寄るな!』です!!」

「……でも、今日は恋人同士なのに変だよ。それ」


久留生海斗は再び強引に私の手を掴むと、自分の腕に私の手を通す。


「ほら、笑って」


彼に言われて、一生懸命、頬の筋肉を両上に引っ張り上げる。


「その顔……不気味」

「だから、無理なんです!ってば!」

「自然にしてればいいんだって」


久留生海斗は、私の手を腕から解いて恋人つなぎに直すと

「君はそのままで十分、可愛いんだから」

と小さな声で呟いた。