迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*





……何を言い出すんだ?



「夏休みなんだし、一度くらい顔を出してみたら?」


「……っ」



俺の反応を無視して、勝手に進めていく母さん。



「ちょうどいいじゃない?今日、これからみんなで…「母さん、」



“行かない”って、
きっぱり断ろうと、声を絞り出そうとしたとき。



「今日は、検査の日で慌ただしいから。やめておいたほうがいいよ。」



口を開いたのは、アイツだった。



「…そう?」


「うん。それに、航にだって予定があるだろうし…急に言われても困ると思う。」



やんわりと、でも有無を言わせない強さで。

アイツは母さんを止めた。



「そう…よね。
また、今度にしましょ」



一瞬、何か言いたげな表情になったものの、

何事もなかったかのように食事に戻る母さん。




今のって、もしかして…

“助けられた”?




ちらりとアイツを見るも、



「………。」



俺の視線に気づかないふりをしているのか、こちらを振り返りもしない。





……ムカつく。


こういうときだけ

“兄貴面”するなよ――