ビターな彼に夢中[短編]

『そんなのやだ…』


声が涙声になる。


『兄ちゃんのこと軽蔑した?』


…軽蔑…?

お兄ちゃんを…?


涙目でお兄ちゃんを見ると

お兄ちゃんも切ない目で私を見ていた。


『ごめんな…。』


お兄ちゃんはそれだけ言うと
部屋から出て行こうとした。


私は咄嗟にベッドからおりて
お兄ちゃんの背中に手を伸ばしていた。


お兄ちゃんの悲しい目をみて

私が何かを思うより先に
体が勝手に反応していた。


『お兄ちゃん…!』


背中の洋服を私に捕まれ
お兄ちゃんは振り返った。


目が合うとお兄ちゃんは少し困ったように笑った。

『兄ちゃん、一人暮らし始めようかと思うんだ。』


え…?


『…い…いつから?』


『今日思いついたとこだから、
すぐには無理だけど。
出来るだけ早めに。』


鼓動が速くなる。


やだ…

やだよ…

『…なんで急に…?』


お兄ちゃんの服をつかんだ手に
じんわり汗が滲む。