いつもの涼太なら、ここで引き下がる所だが、今回ばかりは何としてでも交通費を借りなければならなかった。


「母ちゃん!!
借りたお金は、バイトしてすぐに返すから…

頼む!!
一生一度のお願いだ。
今すぐ俺に3万円貸してくれ」


「何を寝ぼけた事を言って…」


母は涼太の方に振り向き、一喝して追い払おうとしたが…

涼太の表情を見て、言うのを止めた。


「ふぅ…」

そして大きくため息を吐くと、戸棚からお金を取り出して涼太に渡した。


「バカ息子が、いっちょ前に男の顔をして…

好きな様にしな!!」


「母ちゃん!!
絶対に返すからな。
サンキュー!!」


涼太はお金を受け取ると、バタバタと玄関に走った。



「一生のうちに、あんなに真剣な表情をする事なんて、そう何度もありゃしない。

悔いが残らない様にねバカ息子…」


台所で再び晩ご飯の準備をしながら、母はそっと涼太の背中にエールを贈った。


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