「なんだよ…。琴弥、まだここにいたのかよ……」



背後から聞こえてきたのは、そう…あいつの声だった。



振り向くと、ジャージ姿の海道貴人がこっちを向いて立っていた。



「うん。日南、待ってるから」



「ふーん。そう…。ちょっと…ラッキーだな。俺」



「はぁ…?」



「……だってさ、琴弥と話したくてもなかなかチャンスがなくてさ…」



「相変わらず、呼び捨てですか…しかも名前を…」



「他に誰もいない時はいいじゃん。ホントは他の奴らがいる前でだって、もっとそう呼びたいけど、やきもちだかなんだか知らねぇけど、うるせぇ女がいるからさ。これでも俺、気を使ってんだよ」



ああ…はいはい。



そりゃあ、あんたがモテるからでしょうが…。



「ってかさ、何しに来たの?もうリレーの練習始まってるんでしょ?あんたが行かないとみんな困るでしょ…あたしも日南が来たらすぐ行くって…」



「だから……俺は…さ」



そう言う海道貴人の表情……その表情ににドキっとしてしまいそうになった私。



その顔は、そんな表情は……見せないで……。



「俺は…ただ練習にお前がいなかったから……」



目が合った海道貴人は、顔を照れくさそうに少しだけ赤くした。