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■いたくない






言葉にすれば、きっと簡単なんだけど。








「なんでさっきから笑ってるの。」


隣で恨めしそうに杏花が言った。
一階の階段下。
物置みたいになってるから、基本人はいない。
よく考えるとこの学校は隠れ場所が多いと思う。


「だって…杏花すげぇ動揺してんだもん。初めて見た。人見知りなんだ?」


「そうだよ人見知りだよ。あまり人と関わらないもの。」


しょうがないのよ、と彼女は少し頬を膨らませた。
可愛いなぁ。


「昼はあそこにおいで。雨が降らない限りいるからさ。
俺らが鍵持ってるの先生にも内緒だからさ、バレないように非常階段登ったほうがいいかも。」


笑うのをやめて狭い階段下で伸びをした。
もう少しで上に手がつきそう。


「うん、そうする。亜也ちゃんとも榎本君とも仲良くなれたし。ありがと、千明。」


いや、それはかなり不本意なんだけどね。
いっそのこと君の世界を俺だけにしたいぐらいなんだけどね。
口にはしない。君は俺のじゃないから。


「ん…じゃあそろそろ行く?」


そう言って表に出ようと足を運んだ。


「!」


つんのめる。後ろから下に引っ張られた。


「杏花?」


何事かと、とにかく彼女をのぞきこむ。
そのままの体勢でいたら、彼女の頭しか見えない。





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