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「…。」


俺は彼女の姿が見えなくなるまで、彼女の去って行った方から目を逸らせなかった。


「…ちぃちゃん?」


元凶の女子生徒は、何の反応もない俺を下から覗いた。

別に、女子生徒の存在を忘れていたわけではないけれど。
無視していたわけでもないけれど。
本当に、気づかなかった。
ただ、彼女の後ろ姿を見つめることしか出来なかった。

さっきの彼女。
今までの女子生徒なら、俺が優しくすれば笑顔で、気があるんじゃないかと俺を求めて、媚びて、すがってきた。
別にナルシストなわけではない。事実だ。
そして今回もそうだと思ったのに。


『…。』


それは、無言の訴えだった。
「私を巻き込むな」というように、ただ、睨みつけて。
初めてだった。
あんな風に、荒々しい視線を向けられたのは。


「ちぃちゃん?」


隣の呼ぶ声はもう耳に入らなかった。



俺の視界を、蜂蜜色が支配した。





to be continue.

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