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■ 届く距離







なんて言えばいいのかな。








「ちぃー!」


教室に入るなりくらったのは、亜也の豪快なタックルだった。
いつもどおり「ぐえ」とか言いながら、なんとかして倒れないように踏み留まる。


「みんな諦めたんだろ、お前のこと」


ヒカリがそう言って手を貸してくれた。
ようするに、亜也はそれを喜んでいるらしい。


「…なに、情報回るの早くね?」


「杉原が言いにきたんだよ。」


ヒカリの口から恵里佳の名字が出た瞬間、俺は一瞬表情をかたくした。


「…ちぃ?どうかした?」


敏感に気づいた亜也が、少しだけ離れ尋ねてくる。
俺はそれに苦笑いを返した。



「結局俺は、何もできなかったんだよ」



至近距離の亜也にしか聞こえないような声で言う。
それだけ言って、下を向いた。

こいつらが「おめでとう」と言わないのは、あいつらに全ての非があるとは思ってないからだろう。
その点はありがたいと思った。
きっとすごい剣幕で怒鳴ってしまうだろうから。



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