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「…大丈夫だよ、千明が前に戻ったから。
これで絡まれるのは減ると思う。」


「そんなのだめ!」


いきなりの澤木ちゃんの声に、俺は足を止めた。
必死な顔で俺の腕を掴んでくる。


「だめだよ、そんなことしたら千明が傷ついちゃうじゃない!
どうして、どうして止めなかったの?私なら平気なのに!」


彼女の手に力が込もって、腕が少し痛んだ。



「千明が決めたことだから」



叫ぶように言う彼女に、それだけ言った。
ピタリと停止し、力の抜けていく澤木ちゃんに、ただ微笑むしかできない俺。


「周りが何言ってもさ、最後に決めるのは自分だから。
千明は俺らが口出す前に決めちゃったから、何も言えないんだよ」


言い訳に聞こえるかもしれないけど、事実だから。
放心したように止まったままの彼女に、心の中で「ごめん」と呟いた。


…こんなとき、千明ならどうするんだろうな。
何か、痛くない言葉を選べるんだろうな。



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