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「…おまえさ、本当好きだよな澤木ちゃん。」


口にパンをくわえながらヒカリは言った。
突然すぎて、俺もパンをくわえたまま、反応が遅れた。


「…何、急に。」


パンを咀嚼しながら、500mlのカフェオレのパックをコンビニ袋から取り出し聞き気返す。


「だって今、すっげー残念そうな顔してっから。」


ヒカリは得意げに、いたずらそうな笑みを浮かべた。


「…俺が好きなのは杏花なんだけど。」


「知ってる。でもそれ、澤木ちゃんだろ?」


「!」


あの鈍すぎるヒカリまで気づくなんて、驚いた。
彼女を名前で呼んだのを聞かれたんだろうか。
ヒカリは、俺の焦りから考えが読めたのか、またニッと笑う。


「お前はわかりやすすぎなんだよ。ずーっと澤木ちゃんしか見てないし、なんか最近あたふたしてるし。隠すの下手だよなぁー」


そう言いながら笑うヒカリに、少しだけ関心した。
何気に他人見てるんだなぁと。
自分のことにはめっぽう鈍感なくせに、そういう奴に限って、こういうときは鋭いんだよな。


「…絶対名前で呼ぶなよ。」


少し睨みながらヒカリに忠告。
名前漏洩を防ぐためもあるが、俺以外の男に杏花と呼ばれるのは嫌だ。
もう理由は個人的なものが大半を占めているけども、もし名前で呼んだら殴ってやる。
俺の思いが伝わったのか、ヒカリは面倒そうにため息ひとつ吐いて、「はいはい」とだけ答えた。





君が知られていくたびに、独占欲は深まるばかりだけど、どこかで嬉しいと思う俺がいる。

君は一人じゃないんだと、力強く言えるように。



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