時が止まればいいと思った。そうすれば遥とずっと一緒にいられるのに、と千夏は本気で考える。

もっと違う出会い方をしていれば、お互いもっと楽しく過ごしていたのかもしれない。
ずっと一緒にいたいよ、遥さん……。


「落ち着いたか?」
「……はい…」
やっと涙が止まり、嗚咽もおさまった。

「ありがと、千夏…。俺、すげー救われた」
「私もそうです。遥さんのおかげで、お母さん達の気持ちがわかりました」
思わぬ返事に、遥は驚いた様子で千夏を見つめる。
「私、父が有名な大学の先生で結構裕福な生活をしてたんです。でも、そのせいで“原家を汚すような行動は慎め”って、無理矢理いろんな教育を受けさせられた…。ずっと思ってた、お母さんもお父さんも、私を原家にふさわしい子供に育てたいだけ。愛情なんて持ってないって」
「千夏…」

「でも遥さんが私を拉致して、身代金要求の電話をかけた時、遠くにいても心配する母達の声が聞こえました。私、愛されてたってわかってすごく嬉しかったんです」
「遥さんのおかげです…」と、遥を抱きしめる腕の力を強める。
だからあんなにヘラヘラしてたのか…。

「遥さん」
「ん?」
「遥さん、“私”を拉致した本当の目的はお金なんかじゃないですよね…?」
「!!」
千夏は顔を上げ、真剣な眼差しで遥を見据えた。
「話してください。遥さんの本当の目的と、抱えているつらい出来事…」
「……わかった」