まるで悪魔だ。
否、既に悪魔か。

そんな悲劇の憲兵達が部屋から出たと同時に、姿を現したのは黒い髪の青年。
オーウェン・イブ・シュヴァンネンベルク。
ラザレスの息子。

その容姿は父とよく似ており、彼は連行される憲兵達を横目に小さく息を吐いた。


「また、これ、ですか。」


そして手を首の位置で真一文字に引く。

今月に入ってから、これでもう三度目だ。
一体何人殺せばこの人の気が済むのだろう。

などと頭の隅で思いながらも、目の前にいる強大な父には何も言えず。
オーウェンは淡々と今の状況を説明し始めた。


「女王陛下はどうやら死刑囚と共に逃亡を図ったようです。
…ご存知の通り、憲兵を装い逃走した模様です。裏門担当の憲兵達が証言しております。」


一人は気が強く、もう一人はまるで女のようだった。
何故か全国共通通行許可証を持っていた。

…気分が悪い仲間を連れて行った憲兵がいた。
知らない顔だったが、他の部署の奴だろうと思った。

1番街で2人組の憲兵を見た。

聞けば聞くほど出てくる証言の数々。
間違いなく二人はこの城を憲兵服を着たまま出て、街の中に身を潜めているのだろう。


「あの小娘…実に小賢しい真似をしてくれる…。」


ラザレスは机を殴る。
唇を噛み、眉間に寄る沢山の皺。

嗚呼、なんという誤算だ。
あの小娘には最高の絶望を与えてやったというのに、逆に生きる希望を見出したとでもいうのか…?
もしやそれとも、同じ地下牢にいた死刑囚が何か唆したか?

クソッ、そんな馬鹿な…、
信じられん…!

だがいずれにせよ、このままあの女王を殺すわけにはいかなくなった。
王家の証が無ければ、私が王になるなど到底不可能。

…なんとしてでも女王を連れ戻し…王家の証の在り処を吐いて貰わねば…。


「…オーウェン、王国騎士団を連れ何が何でも女王と死刑囚を見つけ出せ。」


拳を握り締め、唸るようにしてラザレスは告げる。