「ここが…エルバートが言っていたお店…なの?」
私は胸に手を当てたまま立ち尽くした。
店舗こそ小さいが、違法店にしてはあまりにも堂々とした佇まい。
…本当にここなのかしら…。
と私は少しだけ首を傾げてしまうが、
「入ってみなきゃ分かんねぇだろ。」
私と違ってとことん強気なハイネは、ノックもせずドアノブに手をかけた。
が、
「…待って。」
私は思わずそんな彼の手を掴み静止させてしまう。
驚いた表情で私を見つめるハイネ。
「……は?」
何のつもりだと言わんばかりに私を見るハイネの視線から目を逸らし…私は小さく言った。
「ここは…私が開けるわ。」
思えば、初めて自分の意思で行動しようと思った時だった。
今まで何もかも助けられ、頼ってきた私。
…自分で行動しなければ。
そう思ったが故の行動であったと…後から実感が沸いてくる。
それに…。
「もしここが本当にエルバートの通っていたお店だとしたら…直接、その女店主さんとお話がしてみたいの。」
失ってしまった…エルバートの為にも。
少しでも彼を知っている人に彼の事を聞いてみたかった。
エルバートの思い出にもう少しだけ縋らせて欲しい。
「お願いよ、ハイネ。」
私は彼を見る。
するとその瞬間、そのダークブルーの瞳が揺らいだような気がした。
そして、彼はどっと大きな溜め息を吐き…
「どうぞお好きに。」
小さく微笑んだ。