「でも、」


エルバートはオーウェンを見る。


「貴方が幸せなのであれば、私は嬉しいです。」


そう思えるのは、きっと彼が今までどういう思いで過ごしてきたのかを知っているから。

だから嬉しい。
こうしてまた話せる事は、嬉しい事。

一度は互いの絆を互いに切り裂き、剣を交えた事もあった。
もう二度と話す事もないのだろうと思っていた。

けれど、移ろい行く時代が…それを変えたのだ。


「昔は意地っ張りで、泣き虫で…毒々しい子どもだったのに…。いつの間に、こんなにも立派になってしまわれたのでしょうか。」


自分だけ少し置き去りにされているような気もした。
でも、そんな自分自身も変わったのだと自負している。


「また、来ます。今度はワインでも飲みましょう。…貴方が不味いと言ったあのワインを。」


だからせめて。
“変わらない約束”くらいしたっていいじゃないか。


変わる世界でたった一つ。

変わらないものは人との繋がり。



「…ああ、そうだな。その時もまた不味いと言ってやる。」


「どうぞお好きに。今度不味いと言ったら製造者の方呼んで来ますから。」


「………いや、それはいい。」



そしてエルバートは本来の目的であった資料と報告書を受け取ると、




「Auf Wiedersehen.」




軽く微笑んで懐かしい故郷を後にした。