『…よい心構えですのう。』


すると、何故だろう。


目の前に、死んだはずのサミュエルの姿があった。
彼は私ににこりと微笑みかけると、まるで私をエスコートするかのように道の先を指で指す。


『さあ、お往きなされ姫様。…わしはいつまでも…貴女のお側に…。』


「サミュエル…、」


そう言い残し消えていく彼を通り抜け、私は唇を噛み締めた。


「…ありがとう」


そして再び石畳を蹴る。

もう既に周りの目など気にならなかった。
目の前に見える道を、私は無心で走った。

走りすぎて、息がし辛くなって、胸が苦しくなる。

けれど、それだって。

私が今生きている証で。


変わっていく風景、移ろいゆく時。


15分前の鐘が鳴った時、私は2番街を飛び出した。



「―、はっ、はっ、」



1番街に辿り着いた時。
一度私は足を止めた。

目の前には沢山の人だかりが押し寄せていて…恐らくこれ以上は近づけない。

もどかしさの中、少し背伸びをしてみれば人ごみのずっと向こうに断頭台が見えた。


「―……。」


ゴーン。

呼吸を整え、そのまま立ち尽くしていると…
終に10分前の鐘が鳴る。




―…そしてその刹那。