「んな事で怒ってどうすんだよ…。仕方ねぇだろ知らないもんは知らねぇんだし。
俺がアンタを締め上げたら地図が出でくる!って言うんだったら別だけど。」
ぼそぼそと呟きながら歩く彼の背を見つめる私。
「とりあえず歩きゃ何とかなるだろ。…だから口開けてしらけた面してんじゃねぇよアホ王女。さっさと付いて来い。」
そう言われて初めて口が開いていることに気が付いた私は、慌てて口を閉じて駆け出した。
…てっきり怒鳴り散らかされるのかと思った。
まぁ、最後のアホ王女は耳についたけど…。
とりあえず良かった…。
安心し私が胸を撫で下ろしたその時だった。
「…、止まれ!」
突然先を行くハイネが小声で叫び、立ち止まった。
急に足を止める事が出来なかった私は彼の背中に思いっきりぶつかってしまったが…そんな事を気にしていられないくらい彼の表情は真剣そのもので。
「ど、どうしたの…?」
おずおずと私が問いかけると、ハイネは前を向いたまま言う。
「…憲兵がいる。…あと、クソでかい城壁…。」
私は言われて初めて気が付いた。
木々の間から見える大きな白い城壁と、何個がある木製の城門。
そしてその前には相応の数の憲兵達が見張りをしていた。
…どうしよう…!
再び心臓が高鳴り始める。
焦りと、迷いと…恐怖がこみ上げて。
足ががたがたと震え、狼狽えた。
だが一方でハイネは何かを決意したように…堂々とそのまま歩き始めた。
勿論私の手を引いて。
「ちょっとハイネ…!気は確かなの!?」
思わず声を上げるが、彼は意味深に口元をゆがめる。
「………俺に任せろ。」

