花嫁と咎人


柔らかい何かが、口に触れたような気がした。
刹那、塞がれる口。

右手の七面鳥も、左手のワインも落ちて…全身が凍った。

吐き出す事の出来ない二酸化炭素。
開きすぎて乾いてきた目。

目の前のフランの顔で脳裏が埋め尽くされた時、俺はようやく理解した。


「…ちゅー、しちゃった。」


唇が離れて、そう言うフラン。

そう、俺は…フランに唇を奪われたのだ。

瞬間、一気に歓声が沸き起こる周囲。


…どーなってんの、これ。


硬直したままの俺と、そのまま俺の腕の中で眠ってしまったフラン。


「いやん、積極的!」


酔ってオカマ化したオズにからかわれても反論出来ないほど、俺の頭はショート寸前だった。
全ての計算式が穴と言う穴から抜け出して、耳元で天使の声が聞こえる。

…重症だ。
重症だ。俺は重症だ。

そう思った時、一瞬にして脳内はショートした。



  ◆ ◇ ◆


「それ絶対特技だよ、目ぇ開けたまま失神するって。」


髪の毛を何個も輪ゴムで結び、顔には変な化粧をしたままのオズがそういった。

嘘のように静まり返る家。
既に夜は12時を越え、住民はそそくさと帰っていった。

残ったのは酔いつぶれて寝てしまった一部の住民と、ジャック、妻のリサ…そしてフラン。

あとは2階のバルコニーに出ている俺達二人だけだ。

実は…俺はフランにキスをされた後の記憶が一切無い。
オズ曰く、目を開けたまま失神していたらしくて。


「…そんな特技いらねぇよ。」


それを知らない自分が物凄く恥ずかしい。
ああ、物凄く。