彼は孤独だった。

母は生きているのか死んでいるのか…どこかも知らぬ国外に。
父は義父に殺され、今はその憎い義父との逃げられぬ生活。

突然背負わされた時期当主という名の鎖が…彼の心をどんどん締め上げていった。


だが、幸い…義理の姉はとても優しかった。
幸か不幸か、何年も母が忍びで彼女に会っていたお陰で、彼女は息子を憎む事無く…むしろ本当の弟のように心から愛情を注いでくれた。

彼にとっては彼女だけが心の支えだった。


そして無口で無知だった彼に世間を教えたのが、とある弓使いの少年。

少年は何度か彼を家から連れ出し、沢山の事を教えた。
流行や、珍しい物、人との関わり方。
…代わりに頭の良い息子は、少年に文字を教えた。

気が付けば、二人は親友になっていた。
二人は面白半分で正義の味方を気取り…泥棒や賊を捕まえ、街で噂になった事もあった。

しかし、とある事件を機に…彼らの友情は途切れてしまう。


その事件の後、弓使いの少年は次第に心の闇に堕ち、
息子は年を重ねるにつれ、家から出る事が困難になった。

やがて弓使いの少年は盗賊へ、息子は次期当主として。


違う道を歩み始める。


しかし…息子の人生は甘い物ではなかった。

権力に依存した義理の父は、やがて息子を自分の思い通りに動く都合のいい駒となることを強いた。
息子は反発し、義理の父はそれに対して制裁を加える。

何度も狭い部屋に閉じ込められ、姉とも会わせて貰えない日も少なくは無かった。



そんな時…息子の心は次第に、母の安否へと傾き始める。
母さえ帰ってこれば…。

思い立った息子は、義理の姉と何度も計画を練った。
姉も父を快く思っておらず、寧ろ憎しみを抱いていた。

どうやら、彼女もまた…父に酷い仕打ちを受けていたらしい。


そして…息子は動き始めた。